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少し肌寒くなってきた。プラウミルヒは立ち上がると湖を後にした。
家々の窓からは灯りがこぼれ、子供たちの笑い声が漏れている。プラウミルヒは一切の考えることをやめた。すると彼のなかに解放感が沸いてきた。
すこし、不思議な感覚だった。
彼は一軒だけ灯りの灯っていない家に入ってゆくとカップ2杯分のミルクをあたため椅子に座った。
村はずれの静寂の中、いもりの影が蝋燭に揺れる。いつになく愛らしくみえた。
やれやれオーナーときたら、むろん分かってはいたことであるがなんという堅物であろう。ベリードの組合への投資はもはや回収はみこめず、社員を路頭に迷わすのが積の山である。
湖面に映る月はその吸い込まれるような蒼さを増していた。
「とはいえ今日を限りにおれには一切関わりのないことさ。」
独り身には十分な貯えがあった。それに彼には自身があった。しかしながら、いかんせん家が貧しかったので奉公に、といっても人からみれば決して悪い待遇でもなかったが、今まではそれに甘んじるしかなかった。
心地よい風が通り抜ける。
いつに無く静かな水面には月が優しく映し出され、湖畔では虫たちがささやいていた。
普段は足を止めることのない湖添いの道、この四年間通い慣れた道であったがプラウミルヒは湖畔に腰をおろし、青く映る月をみていた。